七十八才になるおばあちゃんから一通の手紙を預りました。おもひでカプセル便の十年の申し込みでしたが、日付がありません。「十年後の何月何日にしますか。」とたずねたところ、しばらく考えてから、「それじゃ八月十六日にしてもらおかの。」という返事でした。我々はなぜ八月十六日かとは思いましたが、手紙に関した個人的な事は聞けません。するとにっこりと笑ったそのおばあちゃんの口から次のような事を静かに語ってくれました。
 「うらは(福井では「自分」・「私」のことをうら≠ニ言う人が五十代以上の人に多くいます。)うちの嫁と仲が悪うての、いろいろ世話をしてくれてありがたいと思うているけど、これがなかなか「ありがとの。」のひとことが言えん。強情なうらは、どんなにこれから世話してくれても、嫁に感謝のひとことが言えん。明日届いてしまう手紙には言えんけど、十年先なら言えると思うて持っきたんや。うらの兄弟は皆八十ぐらいまでしか生きられなかったで、うらも十年先には、あの世行きや。十年先の八月十六日は、多分うらの何回目かの旧盆や。この手紙を読んだら、涙のひと粒でももらえるやろ。」と言い残し、その場を去ろうとしたおばあちゃんに、職員の一人が、「おばあちゃん元気やで十年先もきっとぴんぴんしていると思うざ。」って思わずつぶやくと、「そん時は嫁と仲良うなってる。」と言い残して、何か嬉しそうに帰って行きました。我々職員一同、手を合わせるような気持ちで、その元気なおばあちゃんを見送りました。「おばあちゃん、いつまでも元気での。」と言いながら…。

四十代の主婦からのおもひでカプセル便。一年から十年まで十通預りました。添書きがあり、次のように書かれていました。
「先日私は癌を宣告されました。余命三年〜五年、途方に暮れながら、図書館に寄ってみると、カウンター横に「おもひでカプセル便」と書かれたパンフレットが目に入りました。何か気になって手にとってみると、未来への手紙を、あの一筆啓上賞をやっている丸岡町が新たに始めたことがわかりました。今のこの私の想い…いつ私が命尽きる事があっても家族に届くのかしらと思いながら、いつの間にか一通、二通と手紙を書いているうちに、一年目の、二年目の自分の誕生日に送付することにしました。二人の子が一人前になるまであと十年。絶対生きてやる≠ニいう私なりの決意と願いを込めて申し込みます。くれぐれもよろしく…とありました。これまでに二通届けました。お元気でしょうか…。

うちの孫に二十才の誕生日に届けてほしいと十五通の注文がありました。十三年三通、十五年七通、十七年三通、二十年二通です。この世を去っても十五人の孫が見守ってくれるようで嬉しいとも書かれていました。

三年後に結婚しようと、その日まで決めた若い二人からの三年後のある日、この手紙が届きます。結婚式で皆さんに披露するそうです。自分の手紙、互いへの愛の手紙になるはずです。結婚式にはお客さんへの引き出物にもしたいと書かれていました。

〜おもひでコラム第六幕より〜


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